高松地方裁判所 昭和44年(わ)288号 判決 1971年8月17日
被告人 田所政市
明三五・三・一二生 農業、坂出市鎌田池土地改良区理事長、坂出市農業協同組合専務理事
主文
被告人を懲役一年に処する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、香川県知事の埋立免許を受けないで、昭和四二年一〇月頃から昭和四三年二月末頃までの間、公有水面である坂出市小山町(旧町名堀江町字大池)三五三番地所在の香川県知事が管理する国有溜池「鎌田池」の東側堤防沿いの部分に土砂を投棄して埋立工事を行ない、宅地約七、〇〇〇平方メートルを造成し、もつて「鎌田池」の当該底地を侵奪したものである。
(証拠の標目)(略)
被告人は本件埋立は鎌田池土地改良区の事業としてなした旨弁解し、被告人の検察官に対する昭和四四年一〇月一日付供述調書に添付されている「鎌田池土地改良区臨時総代会開催御案内」と題する書面(以下「案内書」という)に「昭和四十年度同四十一年度同四十二年度に於ける役員会並びに総代会に於いて満場一致決議したる鎌田池一部埋立工事再確認に関する件」という記載があり、また証人泉勘四郎、同西岡照男、同大西庄太郎らも本件埋立については事前に改良区の総代会、役員会において承認の議決がなされたとの趣旨の証言をしているのであるが、右「案内書」の記載から直ちに土地改良区が本件埋立をする旨の意思決定をなしたと速断することはできないのみならず同案内に基づいて開催された昭和四三年二月三日の総代会議事録には右議案の採決に際し多数の者の賛成がなされたものの「土地改良区がするべき性質のものでない」との反対意見が述べられ総代会の進行を一時休会の上別室において協議がなされた結果「資金の捻出方法とか計画」とかについて「話が充分徹底して」いなかつたため、「理事とか総代とか田子その他に周知が不徹底であつた為に知らないものがあつた地区の開発については大賛成であるがそのへんについて今後理事長(注被告人を指す)は改善し役員会総代会において相談し共々に協力して開発するようにもつて行つてもらいたいというのが皆様方の意見でございましてはつきりした回答については二、三日猶予をもらいたいと言うことです全員之について了承した」旨の記載が認められ更に前顕証拠の標目にかかげた被告人の検察官に対する各供述調書添付の総代会役員会等の議事録その他被告人が提出した書面の記載を検討するも本件埋立については土地改良区の意思決定がなされていたとは到底認め難く前示被告人の弁解ならびに泉勘四郎、西岡照男、大西庄太郎の各証言も直ちに採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は、刑法第二三五条ノ二および公有水面埋立法第三九条第一号に該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、一罪として重い不動産侵奪罪の刑で処断することとし、所定刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。